A:ヌン殺しの巨大蜂 アール
「アール」と呼ばれる巨大蜂について知りたいのか?
ヤツの特徴は、熊をも即死させる強力な毒針と、羽ばたきによって巻き起こる、ハリケーンのような衝撃波さ。
これは、アナンタ族から聞いた話だ。かつて、メ族の「ヌン」が一族を守るためにヤツと戦い、毒に冒されながらも、命と引き換えに洞窟へと封じ込めたらしい。
だが、ヤーンの大穴が開いたときの衝撃で洞窟が崩れたのか、
最近になって、封印したはずのヤツが姿を現したようだ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
視界に靄がかかりぼやけて見える。毒が回ってきたらしい。
奴が飛ばした針は全部躱せたはずだが、どうやら奴の針は毒を噴霧しながら飛んでいるらしく直接触れなくても大量に吸い込むと効くらしい。最後まで同行をせがんできた彼女の顔が頭に浮かぶ。彼女が居れば解毒できたな、一瞬そんなことが頭をよぎったがすぐに打ち消した。この素早い殺し屋相手に彼女を護りながら戦える自信などない。死体が増えるだけだっただろう。現に自分は奴の攻撃こそギリギリ躱せているが傷を負わせることもできてはいない。ただ背丈一杯ほどの小さな穴に追い込んだだけだ。
俺は全身に力を込めて岩を押した。奴が穴から出てきたら折角の覚悟も何にもならない。
「うおおおおおおお!」
叫び声をあげると、踏ん張る足で、岩に押し付けた肩や腕で、全身を使い全力で押した。
岩はズズッズズッと地面を削りながら少しづつ進む。踏ん張るたびに全身を駆け巡る血液が毒を体中に巡らせるのを感じる。
上等だ、元より生きて帰れるとは思っちゃいない。
「ふぬうううう!」
最後の力を振り絞り岩を押した。巨岩は少し転がる様に動きズンッと音を立てて、小さな洞窟の入り口を塞いだ。
「やった…」
俺は岩に背を預け、足を放り出して座り込んだ。
思うように呼吸が出来ない。一撃をまともに喰らうと熊でも即死するという即効性の猛毒だ。持ち堪えたほうだろう。
真っ青な空を見上げた。
それが本当の空なのか、俺の頭の中にある空想の空なのか判断が付かない。全身に感じていた痺れや痛みも感じなくなった。
これでもう一族に被害者は出ないだろう、最後にもう一度会いたかったな、あいつに…。
ヌンは深い闇が自分を包むのを感じた……。
「ね、ヌンって誰?」
あたしはオブラートに包むことなく開けっぴろげにダイレクトに聞いた。
メ族の長は唐突な問いに驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの陰のある表情に戻り言った。
「メ族の英雄さ。一族を護るため魔物と戦い命と引き換えに奴を封じた男だが…それがどうした?」
そう言うと細い木の枝で焚火を突いた。焼け朽ちた薪が崩れ火の粉が掘脳と一緒に舞い上がった。
「ヌン殺しって呼ばれてる奴を探してるの」
あたしがそう言いながら長の隣に腰をおろすと相方が焚火を挟んだ向かい側に座った。
「アールについて知りたいのか?」
あたしはコクコクと二回頷いた。
「ヤツの特徴は、熊をも即死させる強力な毒針と、羽ばたきによって巻き起こる、ハリケーンのような衝撃波だ。これはあまり知られていない事だが、特に気を付ける必要があるのは奴が飛ばしてくる毒針だ。微量だが毒を噴霧しながら飛び、それを吸い込むと神経系の毒に侵され命を落とす。ヌンのようにな」
そう言った長は焚火に視線を戻しながら聞き取れるかそうかという小さい声で「気を付けろよ」呟いた。
その姿が目に浮かんだ…。
そうか...避けただけじゃダメなんだ...。
「しっかりして!」
相方の声が耳をつんざいた。
あたしはハッとして顔を上げる。
意識を失っていたのか?あたしは驚いて体勢を整えようとしたが体が思うように動かない。
遠のいていた意識が現実に引き戻され、同時に自分の置かれた状況が頭に蘇る。
人の倍ほどの大きさがあるこの巨大蜂は盾役になっている前衛の相方が散々注意を引き付けようとしているのにそれを完全に無視して後衛の黒魔導士であるあたしを狙ってきた。
あたしの攻撃こそが本命であり奴にとって命を脅かす脅威であることを理解している証拠だ。
「昆虫のくせに生意気!」
あたしは吐き捨てるように言ったが、体は相変わらずいう事をきかなかった。あたしは片膝をついたまま巨大蜂を睨んだ。まっすぐこちらに体を向けた蜂がまた毒針を発射しようと体を捻りながら空中で態勢を整えた。
これは...万事休すだ。